捜索(そうさく)
【定義】
捜索とは、一定の場所・物・人の身体について、物または人の発見を目的として行う強制処分です。
【解説】
刑事事件の捜査では、事案の真相究明と裁判の準備のため、証拠の収集を行います。
必要な証拠を強制的に探すための手段が捜索ですが、探すためには当然、対象となる場所に立ち入ったり、物を動かしたり、人の身体に触れたりといった侵害的な行為が必要になります。
そこで、憲法は人権保障の観点から「何人も令状がない限り捜索・押収を受けない」という趣旨を規定しています(憲法35条)。
これを受けて、刑事訴訟法が捜索をすることができる場合とその要件、令状の形式を厳格に規定しています。
なお、捜索によって物を発見すれば、引き続きその物を強制的に取得する処分(差押え)が必要になるので、捜索・差押えはセットで規定されていることが多く、令状もほとんどのケースでは「捜索差押許可状」という名称で、1通で捜索と差押えの令状を兼ねるものが用いられます。
①令状による捜索・差押え(刑事訴訟法218条)
捜索・差押えの原則型です。被疑者・被告人が処分対象になる場合とその他の第三者が処分対象になる場合とで要件が異なり、前者は「必要」があればよいのに対し、後者の場合には「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」がなければなりません(刑事訴訟法102条、222条1項)。
警察等の捜査機関はこれらの要件を満たしていることを示す資料を添えて裁判官に対し令状を請求し(刑事訴訟規則155条、156条)、裁判官が理由と必要性をチェックして令状を発布します。
憲法の要請に従い、令状には「捜索すべき場所」や「差し押さえるべき物」の明示が必要です(刑事訴訟法219条1項)が、性質上ある程度概括的な記載は許されます。
捜査機関はその令状を対象者に示して執行します(刑事訴訟法110条、222条1項)。
執行に際しては、開錠、開封その他の必要な処分をすることができます(刑事訴訟法111条、222条1項)。
②令状によらない捜索・差押え(刑事訴訟法220条)
捜索・押収されない権利を保障する憲法35条の規定には「第33条の場合を除いては」という例外があり、この「第33条の場合」とは逮捕の場合のことです。
逮捕の現場では被疑者の逃亡を防いだり武器を取り上げたりする緊急の必要があるため、および証拠があることが多いためと理解されています。
刑事訴訟法220条1項はこの例外を具体化して、通常逮捕・緊急逮捕・現行逮捕のいずれに際しても必要があれば、建物等に侵入して被疑者の捜索をすること(同項1号)と逮捕の現場で捜索・差押え・検証をすること(同項2号)ができ、その場合に令状は不要(同条3項)と規定しています。
ただし、令状主義の例外であるため、「逮捕する場合」に当たるかどうかの判断は厳格に行われています。捜索・差押えに際して必要な処分をすることができるのは①の場合と同様です。
【参考条文】
憲法第35条
第1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
第2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
刑事訴訟法 第102条
第1項 裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。
第2項 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。
第110条
差押状、記録命令付差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない。
第111条
第1項 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。
第2項 前項の処分は、押収物についても、これをすることができる。
第112条
第1項 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行中は、何人に対しても、許可を得ないでその場所に出入りすることを禁止することができる。
第2項 前項の禁止に従わない者は、これを退去させ、又は執行が終わるまでこれに看守者を付することができる。
第114条
第1項 公務所内で差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行をするときは、その長又はこれに代わるべき者に通知してその処分に立ち会わせなければならない。
第2項 前項の規定による場合を除いて、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内で差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行をするときは、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者をこれに立ち会わせなければならない。これらの者を立ち会わせることができないときは、隣人又は地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない。
第115条
女子の身体について捜索状の執行をする場合には、成年の女子をこれに立ち会わせなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
第116条
第1項 日出前、日没後には、令状に夜間でも執行することができる旨の記載がなければ、差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることはできない。
第2項 日没前に差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行に着手したときは、日没後でも、その処分を継続することができる。
第117条
次に掲げる場所で差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行をするについては、前条第一項に規定する制限によることを要しない。
1 賭博、富くじ又は風俗を害する行為に常用されるものと認められる場所
2 旅館、飲食店その他夜間でも公衆が出入りすることができる場所。ただし、公開した時間内に限る。
第118条
差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行を中止する場合において必要があるときは、執行が終わるまでその場所を閉鎖し、又は看守者を置くことができる。
第119条
捜索をした場合において証拠物又は没収すべきものがないときは、捜索を受けた者の請求により、その旨の証明書を交付しなければならない。
第218条
第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
第2項 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
第3項 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。
第4項 第1項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。
第5項 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。
第6項 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。
第219条
第1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
第2項 前条第2項の場合には、同条の令状に、前項に規定する事項のほか、差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しなければならない。
第3項 第64条第2項の規定は、前条の令状についてこれを準用する。
第220条
第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第210条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。 1 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。 2 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
第2項 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。第123条第3項の規定は、この場合についてこれを準用する。
第3項 第1項の処分をするには、令状は、これを必要としない。
第4項 第1項第2号及び前項の規定は、検察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合にこれを準用する。被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する場合には、第1項第1号の規定をも準用する。
第222条
第1項 第99条第1項、第100条、第102条から第105条まで、第110条から第112条まで、第114条、第115条及び第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条、第220条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第110条、第111条の2、第112条、第114条、第118条、第129条、第131条及び第137条から第140条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条又は第220条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。
第2項 第220条の規定により被疑者を捜索する場合において急速を要するときは、第114条第2項の規定によることを要しない。
第3項 第116条及び第117条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条の規定によつてする差押え、記録命令付差押え又は捜索について、これを準用する。
第4項 日出前、日没後には、令状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がなければ、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第218条の規定によつてする検証のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることができない。但し、第117条に規定する場所については、この限りでない。
第5項 日没前検証に着手したときは、日没後でもその処分を継続することができる。
第6項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第218条の規定により差押、捜索又は検証をするについて必要があるときは、被疑者をこれに立ち会わせることができる。
第7項 第1項の規定により、身体の検査を拒んだ者を過料に処し、又はこれに賠償を命ずべきときは、裁判所にその処分を請求しなければならない。
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