実況見分(じっきょうけんぶん)

【定義】

実況見分とは、犯罪の捜査のため、場所、物、人の身体について、強制によらずにその状況を調べることです。
 

【解説】

 実況見分と検証とは、処分の内容は同じですが、強制力を伴うかどうかに違いがあります。そこで、実況見分は任意処分、検証は強制処分に分類されます。
 公道など公の土地や施設については、誰の権利利益も侵害しないため、任意処分である実況見分により状況を確認することができます。私人の土地や施設、私人の所有物、人の身体について状況を確認したい場合には、相手の任意の承諾がない限り、強制処分である検証によることになります。任意の承諾があれば実況見分によることができますが、不適切と考えられる場合もあります。犯罪捜査規範により、女子を裸にしての身体検査は任意の承諾があっても行えないとされているのは(犯罪捜査規範107条)、この観点から実況見分に運用上の制限を設けたものです。
 実況見分の用いられ方としては、犯行現場の状況の記録、交通事故が起こった交差点や道路の状況の調査確認、被疑者の供述に基づく逃走経路や凶器を捨てた場所の確認などがよく見られます。いずれも、しばしば地図や写真を添付して書面に記録されます。書面のタイトルは、実況見分調書のほか、写真撮影報告書、捜査報告書などがあり得ます。立会人の簡単な説明が合わせて記載されることがありますが、その部分は供述としての性質を持ちます。
 実況見分調書は、検証調書に準じて客観的・専門的な性格を持つため、刑事訴訟法321条3項により証拠能力を認められるとするのが判例です(「伝聞証拠」の項参照)。しかし、そこに含まれる供述部分は別であり、否認事件では弁護人が供述部分のみ不同意とすることもあります。通常、実況見分調書には供述者(説明をした立会人)の署名・押印はありませんから、不同意とすれば証拠にできないことになります。ただし、その場合でも立会人による状況再現の様子を撮影した写真は、機械的な記録方法であるため署名・押印は不要であり、被告人による犯行再現写真は任意にした不利な供述として322条1項により証拠能力が認められるという判例があります。したがって、被疑者として実況見分に立ち会い、犯行状況の再現を行うことは自白調書を取られるのと同様の意味を持つことになるので注意が必要です。被疑事実を争っている場合には、立会いを拒否するのも一つの対応方法かと思います。
 

【参考条文】

刑事訴訟法第321条3項

 
検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
 

犯罪捜査規範第104条

 
第1項
犯罪の現場その他の場所、身体又は物について事実発見のため必要があるときは、実況見分を行わなければならない。
 
第2項
実況見分は、居住者、管理者その他関係者の立会を得て行い、その結果を実況見分調書に正確に記載しておかなければならない。
 
第3項
実況見分調書には、できる限り、図面及び写真を添付しなければならない。
 
第4項
前三項の規定により、実況見分調書を作成するに当たつては、写真をはり付けた部分にその説明を付記するなど、分かりやすい実況見分調書となるよう工夫しなければならない。
 

犯罪捜査規範第105条

 
第1項
 
実況見分調書は、客観的に記載するように努め、被疑者、被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても、その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならない。
 
第2項
 
被疑者、被害者その他の関係者の指示説明の範囲をこえて、特にその供述を実況見分調書に記載する必要がある場合には、刑訴法第百九十八条第三項 から第五項 までおよび同法第二百二十三条第二項 の規定によらなければならない。この場合において、被疑者の供述に関しては、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げ、かつ、その点を調書に明らかにしておかなければならない。
 

犯罪捜査規範第106条

 
被疑者の供述により凶器、盗品等その他の証拠資料を発見した場合において、証明力確保のため必要があるときは実況見分を行い、その発見の状況を実況見分調書に明確にしておかなければならない。
 

犯罪捜査規範第107条

 
女子の任意の身体検査は、行つてはならない。ただし、裸にしないときはこの限りでない。
 

【関連用語】

  • 検証
  • 伝聞証拠
  • 供述
  • 自白
 
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