用語集

所持品検査(しょじひんけんさ)

【定義】

所持品検査とは、警察官が通行人等の携帯している所持品を強制力を用いずに検査することです。
 

【解説】

 所持品検査については、直接に「所持品検査」という行為を認める法令の規定はないために、そもそもなぜ認められるのかが明確ではありませんが、一般的に次の2通りの条文に則って行われているといわれます。
 
①警察官職務執行法2条1項
 職務質問の根拠規定であり、職務質問の付随行為として所持品検査を行う場合です。
 
②刑事訴訟法197条1項
 任意捜査を認める規定であり、任意捜査として所持品検査を行う場合です。
 
 両者の違いは、相手に対する犯罪の嫌疑があるかどうかです。嫌疑がある場合には②により、嫌疑には至らないが犯罪を犯そうとしているとか、犯罪について何か知っていると思われる状況がある場合には①によることになります。
 
 いずれの場合でも、完全に任意に行われれば問題はないといえますが、相手が所持品検査に同意しない場合にどこまでできるのかについては何度も争われた事例があります。
 
 ①の職務質問に伴って行う所持品検査については有名な判例があり、それによれば「所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許容される場合がある」とされます。つまり、同意のないままカバンを開けたりポケットに手を入れたりする行為は原則として違法だが、例外的に、たとえば重大な犯罪について非常に嫌疑の濃厚な相手に対して、今を逃せば重要な証拠と犯人の身柄をみすみす逃すことになると思われるような状況において、行きすぎたやり方でなく、相手のプライバシーへの配慮も忘れない方法で所持品検査を行うのであれば、許されることもあるというものです。
 
 仮に許されない状況で所持品検査を行った場合、それによって発見・収集された証拠は違法収集証拠として、証拠能力を否定される可能性があります。
 
 

【参考条文】

警察官職務執行法第2条

第1項
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
 
第2項
その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
 
第3項
前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
 
第4項
警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。
 

刑事訴訟法第197条

第1項 

捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

【関連用語】

所持品検査が端緒となって刑事事件の被疑者になるケースも多いものです。自分が受けた所持品検査が適法だったのかどうか、疑問のある方は弁護士にご相談ください。当事務所は名古屋エリア(愛知県・岐阜県・三重県)の即日面会に対応しております。
 

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