公訴時効(こうそじこう)
【定義】
公訴時効とは、犯罪から一定期間が経過した場合には公訴を提起できないこととする制度です。
【解説】
公訴時効の制度が存在する理由は、①時間の経過によって社会的影響が薄れ、処罰の必要性も小さくなること、②証拠が散逸し、訴追が困難になることと言われています。しかし、殺人などの重罪事件で時効完成まで逃げ切れば罪に問われなくなるということに対して疑問に感じる風潮が高まってきており、平成22年の刑事訴訟法改正により、次の2点で大幅な厳格化が行われました。
・人を死亡させた罪で死刑に当たるものについては、公訴時効を廃止する。これにより殺人罪等の既遂で時効にかかることはなくなりました。
・人を死亡させた罪で禁固以上の刑に当たるものについて、全体的に時効期間を引き伸ばす。
現在の制度での時効期間は以下の通りです(刑事訴訟法250条)。「〜に当たる罪」というのは、法定刑の上限を指します。たとえば、殺人罪の刑は「死刑・無期懲役・5年以上の有期懲役」から選ぶことになっていますが、上限が死刑なので「死刑に当たる罪」になります。
①人を死亡させた場合
死刑に当たる罪 時効はなし
無期懲役または無期禁固に当たる罪 30年
長期20年の懲役または禁固に当たる罪 20年
上記以外で禁固以上の刑に当たる罪 10年
②人を死亡させていない場合
死刑に当たる罪 25年
無期懲役または無期禁固に当たる罪 15年
長期15年以上の懲役または禁固に当たる罪 10年
長期15年未満の懲役または禁固に当たる罪 7年
長期10年未満の懲役または禁固に当たる罪 5年
長期5年未満の懲役若しくは禁固に当たる罪 3年
拘留または科料に当たる罪 1年
時効期間は、犯罪行為が終わった時点から進行を開始します(同253条)。死亡や傷害などの結果も「犯罪行為」に含まれるので、それらの結果が生じた時が時効の開始時点です。
公訴時効は、次の場合に停止します(同254〜255条)。
①公訴の提起:完成前に起訴さえしてしまえば、裁判の途中で時効が完成することはありません。
②犯人が国外にいる場合
③犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達等ができなかった場合
公訴時効が完成していないことは訴訟条件の一つです。時効が完成しているのに誤って起訴した場合には、免訴判決が言い渡されます。
【参考条文】
刑事訴訟法第250条
第1項 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については三十年
二 長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年
三 前二号に掲げる罪以外の罪については十年
第2項 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 死刑に当たる罪については二十五年
二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七 拘留又は科料に当たる罪については一年
刑事訴訟法第251条
二以上の主刑を併科し、又は二以上の主刑中その一を科すべき罪については、その重い刑に従つて、前条の規定を適用する。
刑事訴訟法第252条
刑法 により刑を加重し、又は減軽すべき場合には、加重し、又は減軽しない刑に従つて、第二百五十条の規定を適用する。
刑事訴訟法第253条
第1項 時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。
第2項 共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。
刑事訴訟法第254条
第1項 時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。
第2項 共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。
刑事訴訟法第255条
第1項 犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。
第2項 犯人が国外にいること又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつたことの証明に必要な事項は、裁判所の規則でこれを定める。
【関連用語】
- 起訴(きそ)
- 送達(そうたつ)
- 訴訟条件(そしょうじょうけん)
比較的軽い罪で時間が経っている場合には、公訴時効もチェックした方がよいです。ご不安がある方は当事務所へご相談ください。名古屋エリア(愛知県・岐阜県・三重県)の即日面会に対応しております。