強制捜査(きょうせいそうさ)
【定義】
強制捜査とは相手の同意がなくても強制的に捜査目的を達することができる処分のことで、刑事訴訟法には逮捕、勾留、捜索・差押え、検証などが規定されています。強制処分ともいいます。
【解説】
刑事訴訟法197条1項は「強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」と規定しており、強制処分法定主義を採用しています。
さらに、逮捕には逮捕状、勾留には勾留状、捜索・差押えには捜索差押許可状、検証には検証許可状というように、強制処分には原則として裁判官の令状を必要とするという令状主義も採用されています。
裁判官の令状には、人権侵害の危険がある強制処分を捜査機関だけの判断ではなく、公平な立場の裁判官による事前のチェックを経なければ行えないようにするという意味があります。
このように、法律上の根拠を必要とするということと、令状審査に服するという点が、任意捜査と異なる強制捜査の大きな特徴です。
もっとも、近時行われている捜査手法の中には、刑事訴訟法に規定がないものの、任意捜査として扱うのは不適当なものがあります。
以前典型的だったのは電話等の盗聴であり、個人のプライバシーを同意なく侵害する以上強制処分であり許されないとする学説が有力でしたが、平成11年に「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(通信傍受法)が制定され、立法的手当がされました。
しかし科学技術の進歩とともに、次々と新しい捜査手法が生まれ、新たな問題を提起しています。
昨今では、相手の同意なく荷物の中身を調べるX線照射、自動車等に密かにGPS発信器を取り付けて追跡するGPS捜査等が強制処分に当たるのではないかと問題になっています。
こうした一見して刑事訴訟法に規定がない強制処分は197条1項により許されないとも言えそうですが、検証の枠組みに含めたり、197条の想定していない新たなタイプの強制処分として適法とするのが実務の考え方と言えます。
【参考条文】
憲法第33条
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
刑事訴訟法第197条1項
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
犯罪捜査のための通信傍受に関する法律第3条1項
検察官又は司法警察員は、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に規定する犯罪(第二号及び第三号にあっては、その一連の犯罪をいう。)の実行、準備又は証拠隠滅等の事後措置に関する謀議、指示その他の相互連絡その他当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信(以下この項において「犯罪関連通信」という。)が行われると疑うに足りる状況があり、かつ、他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、裁判官の発する傍受令状により、電話番号その他発信元又は発信先を識別するための番号又は符号(以下「電話番号等」という。)によって特定された通信の手段(以下「通信手段」という。)であって、被疑者が通信事業者等との間の契約に基づいて使用しているもの(犯人による犯罪関連通信に用いられる疑いがないと認められるものを除く。)又は犯人による犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるものについて、これを用いて行われた犯罪関連通信の傍受をすることができる。(略)
【関連用語】