身体検査(しんたいけんさ)
【定義】
身体検査とは、人の身体について行う検証です。広義では、人の身体について行う捜索も含めて身体検査と呼ぶことがあります。
【解説】
(1)身体検査(身体の検証)
たとえば、殺人犯が被害者の抵抗を受けて負った傷の状態を調べるなど、人の身体について検証を行いたい場合には身体検査令状という特別の令状の発付を受けて行います(刑事訴訟法218条1項)。身体検査は通常の検証に比べて、人のプライバシー、名誉、健康に対する侵害の程度が高いので裁判官による特に慎重なチェックが必要と考えられているためです。捜査機関が身体検査令状を請求する際には、通常の検証令状請求の要件に加えて「身体の検査を必要とする理由」と「身体検査を受ける者の性別、健康状態」を示さなければならないとされています(同条5項)。また、身体検査令状には「身体の検査に関する条件」という欄があるのが特徴で、たとえば「医師の立会いの下で行う」など、裁判官の判断により適当と考えられる条件がつけられることがあります(同条6項)。さらに、法定された一般的な条件として、①性別・健康状態を考慮した上で特にその方法に注意し、名誉を害しないように注意することと、②女子の身体検査には医師または成人女子を立ち会わせることが要求されています(同131条、222条)。
身体検査令状が発付されれば、身体検査は強制的に行うことができます。具体的には、まず拒否した場合に過料・費用賠償(同137条)、罰金・拘留(同138条)というペナルティを課すことによる間接強制の方法があり、それらの間接強制で効果がないと考えられる時には実力行使でそのまま実行する直接強制が認められます(同139条)。もっとも、強制をするにあたってはなぜ拒否するのかを知るように努めるなど、慎重に対応しなければなりません(同140条)。
身体検査に関する令状主義の例外として、逮捕・勾留されている被疑者の指紋採取、足型採取、身長・体重の測定、写真撮影は、被疑者を裸にしない限り許されています(同218条3項)。
(2)身体捜索(身体についての捜索)
たとえば、着衣の中に隠し持っている物を捜すには、捜索差押許可状の発付を受けて行います。身体検査ほどの慎重さは要求されず、女子の身体について捜索を行うには成人女子を立ち会わせるということのみ、条件とされています(同115条)。
薬物の自己使用の疑いがある人が尿の任意提出を拒む場合、強制採尿の手段が取られることがありますが、これも身体から物を取得する行為の一種と見て、捜索差押えであるとされます(判例)。ただし、単純な捜索差押許可状では許されず、やむをない場合の最終手段としてのみ認められ、「医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる」との条件を必ずつけなければならないので、結果的に身体検査令状に近いいわば強制採尿令状とよぶべき特別の令状が判例によって作り出されている状況です。
【参考条文】
刑事訴訟法第115条
女子の身体について捜索状の執行をする場合には、成年の女子をこれに立ち会わせなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
刑事訴訟法第131条
第1項
身体の検査については、これを受ける者の性別、健康状態その他の事情を考慮した上、特にその方法に注意し、その者の名誉を害しないように注意しなければならない。
第2項
女子の身体を検査する場合には、医師又は成年の女子をこれに立ち会わせなければならない。
刑事訴訟法第137条
第1項
被告人又は被告人以外の者が正当な理由がなく身体の検査を拒んだときは、決定で、十万円以下の過料に処し、かつ、その拒絶により生じた費用の賠償を命ずることができる。
第2項
前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
刑事訴訟法第138条
第1項
正当な理由がなく身体の検査を拒んだ者は、十万円以下の罰金又は拘留に処する。
第2項
前項の罪を犯した者には、情状により、罰金及び拘留を併科することができる。
刑事訴訟法第139条
裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。
刑事訴訟法第140条
裁判所は、第137条の規定により過料を科し、又は前条の規定により身体の検査をするにあたつては、あらかじめ、検察官の意見を聴き、且つ、身体の検査を受ける者の異議の理由を知るため適当な努力をしなければならない。
刑事訴訟法第218条
第1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
第2項
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
第3項
身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。
第4項
第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。
第5項
検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。
第6項
裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。
刑事訴訟法第222条
第1項
第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。
第2項
第二百二十条の規定により被疑者を捜索する場合において急速を要するときは、第百十四条第二項の規定によることを要しない。
第3項
第百十六条及び第百十七条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条の規定によつてする差押え、記録命令付差押え又は捜索について、これを準用する。
第4項
日出前、日没後には、令状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がなければ、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定によつてする検証のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることができない。但し、第百十七条に規定する場所については、この限りでない。
第5項
日没前検証に着手したときは、日没後でもその処分を継続することができる。
第6項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定により差押、捜索又は検証をするについて必要があるときは、被疑者をこれに立ち会わせることができる。
第7項
第一項の規定により、身体の検査を拒んだ者を過料に処し、又はこれに賠償を命ずべきときは、裁判所にその処分を請求しなければならない。
【関連用語】
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