逮捕前置主義(たいほぜんちしゅぎ)
【定義】
逮捕前置主義とは、被疑者の勾留の前には必ずその被疑者が同一の事件について逮捕されていなければならないという考え方です。
刑事訴訟法には逮捕された被疑者について検察官が勾留請求できること(204条、205条)及びそれらに対して裁判官が勾留の裁判をすること(207条)の規定があるのみで、逮捕されていない被疑者を勾留する手続は定められていないため、逮捕前置主義が採用されていることになります。
【解説】
もし逮捕前置主義を採らず、いきなり勾留も許されることにすると、軽微な事件について10日間の勾留がなされ、捜査の必要と被疑者の不利益とのバランスを失することになりかねません。
また、逮捕状請求の段階で一度司法審査を経た後、同じ事実について勾留状請求の段階で再度司法審査を経ることにすれば、二重のチェックにより司法的抑制が徹底することになります。これらのことから、日本の刑事訴訟法では、逮捕前置主義が採用されています。
この二重のチェックという意義から、逮捕の理由となった事実と勾留の理由となる事実は同一でなければならないというルールが生じます。
しかし、当初の事実に逮捕後の余罪取調べで明らかになった犯罪事実を付け足して勾留請求することは、当初の事実についての二重のチェックを満たしつつ、むしろ逮捕勾留の回数を少なくすることになるので許されるとされています。
なお、起訴後の被告人については逮捕前置主義は妥当せず、在宅で起訴された者が逮捕を経ずに勾留されることもありえます。
【参考条文】
刑事訴訟法第204条1項
検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
刑事訴訟法第205条1項
検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
刑事訴訟法第206条1項
検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。
刑事訴訟法第207条1項
前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
【関連用語】
- 被疑者(ひぎしゃ)
- 逮捕(たいほ)
- 勾留(こうりゅう)
- 取調べ(とりしらべ)
- 被告人(ひこくにん)
- 在宅事件(ざいたくじけん)