用語集

余罪(よざい)

【定義】

余罪とは、ある犯罪事実が捜査や起訴の対象となっている場合に、まだ捜査や起訴の対象となっていない別の犯罪事実のことです。
 

【解説】

 たとえば同じ犯人が同様の手口で盗みを繰り返していたなどのケースで、逮捕・勾留につながった事件(余罪との対比で「本罪」ということがあります。)の捜査を進めながら、まだ十分明らかとなっていない余罪も捜査する必要が生じます。余罪についても嫌疑が高まれば、逮捕・勾留、そして起訴に至ることもあります。本罪の起訴に間に合わない場合は、本罪の審理の途中で追起訴し、それ以後本罪と併合審理で進めるという形が取られます。
 
 被疑者・被告人の身柄拘束には「事件単位の原則」と呼ばれるルールがあり、逮捕の要件、勾留の要件、接見指定の要件、保釈の要件などを判断する際には当該事件についての要件を審査しなければならず、余罪を当てはめて判断することはできません。これは、身柄拘束は裁判所の審査を経て令状が発付された事件についてだけ許されるという、厳しい令状主義の制約があるからです。もっとも、「逃亡のおそれ」という当該事件についての要件を判断するにあたって、余罪があるという事情を考慮することは許されます。
 
 裁判の中で、検察官が起訴事実を立証しようとして「被告人にはこのような余罪もあるのだから、本件犯罪も犯したに違いない」という趣旨の余罪立証をすることは、原則として許されません。よほど特徴的な手口が共通するのでない限り、一つの犯罪事実から他の犯罪事実を推測することは成り立たない(関連性がない)と扱われているのです。
 
 また、裁判所による量刑においても、起訴されていない余罪を考慮して刑を重くし、実質的に余罪も同時に処罰するような量刑を行うことは禁じられます。起訴されていない犯罪事実は処罰できないという不告不理の原則に反するためです。なお、取調べに対して自らすすんで余罪を話した場合、反省を示す態度として有利な情状になることもあります。
 
 余罪の存在により、犯罪の構成要件が変わるケースもあることに注意が必要です。冒頭の例のように窃盗の多数余罪がある場合、当初は窃盗罪で逮捕・勾留されたが余罪捜査が進み、常習累犯窃盗に切り替えて起訴される、などのパターンが考えられます。
 

【参考条文】

盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律

第3条
 
常習トシテ前条ニ掲ゲタル刑法各条ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニシテ其ノ行為前十年内ニ此等ノ罪又ハ此等ノ罪ト他ノ罪トノ併合罪ニ付三回以上六月ノ懲役以上ノ刑ノ執行ヲ受ケ又ハ其ノ執行ノ免除ヲ得タルモノニ対シ刑ヲ科スベキトキハ前条ノ例ニ依ル
 
 

【関連用語】

 
余罪について話すべきかどうか、余罪の影響はどうかなど、お悩みの方は当事務所までご相談ください。名古屋エリア(愛知県・岐阜県・三重県)の即日面会に対応しています。

関連記事

実況見分(じっきょうけんぶん)

【定義】 実況見分とは、犯罪の捜査のため、場所、物、人の身体について、強制によらずにその状況を調べることです。   【解説】  実況見分と検証とは、処分の内容は同じですが、強制力を伴うかどうかに違いがあります。そこで、実 … 続きを見る

身体検査(しんたいけんさ)

【定義】 身体検査とは、人の身体について行う検証です。広義では、人の身体について行う捜索も含めて身体検査と呼ぶことがあります。   【解説】 (1)身体検査(身体の検証)  たとえば、殺人犯が被害者の抵抗を受けて負った傷 … 続きを見る

還付(かんぷ)

【定義】 還付とは、裁判所や捜査機関が押収した物を所有者等に返すことです。   【解説】  差押え、提出命令、領置によって取得した物は、押収物として留置・保管されます(刑事訴訟法121条、222条)。押収物の所有者、所持 … 続きを見る

提出命令(ていしゅつめいれい)

【定義】 提出命令とは、裁判所による証拠収集方法の一つで、所有者、所持者、または保管者に対し、対象物を指定して提出を命じる処分です。提出された物については差押えの効果が生じます。   【解説】  証拠の収集は第一次的には … 続きを見る

所持品検査(しょじひんけんさ)

【定義】 所持品検査とは、警察官が通行人等の携帯している所持品を強制力を用いずに検査することです。   【解説】  所持品検査については、直接に「所持品検査」という行為を認める法令の規定はないために、そもそもなぜ認められ … 続きを見る

公判(こうはん)

【定義】 公判という言葉には広義と狭義の二つの用いられ方があります。広義の公判とは、公訴が提起されてから裁判が終了するまでの一連の手続段階のことです。狭義の公判とは、公判期日に法廷で行われる 審理のことです。   【解説 … 続きを見る

公訴時効(こうそじこう)

【定義】 公訴時効とは、犯罪から一定期間が経過した場合には公訴を提起できないこととする制度です。 【解説】 公訴時効の制度が存在する理由は、①時間の経過によって社会的影響が薄れ、処罰の必要性も小さくなること、②証拠が散逸 … 続きを見る

訴訟条件(そしょうじょうけん)

【定義】 訴訟条件とは、刑事裁判で有罪か無罪かについての審理をしたり判決を下すための条件です。訴訟条件が備わっていないことがわかった場合、訴訟を打ち切らなければなりません。 【解説】 (1)実体と形式  刑事訴訟の審理・ … 続きを見る
名古屋駅徒歩4分 無料法律相談実施中