用語集

令状主義(れいじょうしゅぎ)

【定義】

令状主義とは、捜査機関が行う強制処分について、あらかじめ裁判官のチェックを受けさせ、令状の発付を受けなければ許さないとすることで、捜査の行き過ぎに歯止めをかける考え方です。

【解説】  

憲法33条は逮捕について「権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となってゐる犯罪を明示する令状」を要求し、同35条は「侵入、捜索及び押収」について「正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状」であって「権限を有する司法官憲が発する各別の令状」を要求して、それぞれ令状主義を宣言しています。

令状主義は捜査機関に対する司法的抑制の原理ですから、ここでいう「司法官憲」に捜査機関の一つである検察官は含まれず、裁判所ないし裁判官のことを指しています。  憲法の要請を受けて、刑事訴訟法が各種の強制処分について令状主義を具体化しています。

例として、逮捕状(200条)、勾留状(64条)、捜索差押許可状(219条)、鑑定処分許可状(168条)が挙げられます。

司法的抑制が有名無実のものとならないために、令状は個々の強制処分に対して「各別に」発付され、他に流用できないようなものでなければなりません(一般令状の禁止)。各種令状の記載要件は、この要請に応えるものになっています。  

令状は執行の際、処分対象者に示されるのが原則です。

したがって、処分対象者としても、被疑罪名を知る機会となるとともに、執行の適法性について最低限のチェックはできることになります。  

令状主義には憲法自身も認める例外(現行犯逮捕、逮捕の現場における捜索・差押え等)がありますが、その解釈・運用は厳格に行われています。

【参考条文】

憲法 第33条 

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第35条

第1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

第2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

刑事訴訟法 第64条

第1項 勾引状又は勾留状には、被告人の氏名及び住居、罪名、公訴事実の要旨、引致すべき場所又は勾留すべき刑事施設、有効期間及びその期間経過後は執行に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判長又は受命裁判官が、これに記名押印しなければならない。

第2項 被告人の氏名が明らかでないときは、人相、体格その他被告人を特定するに足りる事項で被告人を指示することができる。

第3項 被告人の住居が明らかでないときは、これを記載することを要しない。

第168条

第1項 鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができる。

第2項 裁判所は、前項の許可をするには、被告人の氏名、罪名及び立ち入るべき場所、検査すべき身体、解剖すべき死体、発掘すべき墳墓又は破壊すべき物並びに鑑定人の氏名その他裁判所の規則で定める事項を記載した許可状を発して、これをしなければならない。

第3項 裁判所は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。

第4項 鑑定人は、第1項の処分を受ける者に許可状を示さなければならない。

第5項 前三項の規定は、鑑定人が公判廷でする第1項の処分については、これを適用しない。

第6項 第131条、第137条、第138条及び第140条の規定は、鑑定人の第1項の規定によつてする身体の検査についてこれを準用する。

第200条

第1項 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

第2項 第64条第2項及び第3項の規定は、逮捕状についてこれを準用する。

第219条

第1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

第2項 前条第2項の場合には、同条の令状に、前項に規定する事項のほか、差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しなければならない。

第3項 第64条第2項の規定は、前条の令状についてこれを準用する。

【関連用語】

 

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