起訴猶予(きそゆうよ)
【定義】
起訴猶予とは、犯罪の嫌疑が十分認められ、訴訟条件も欠けていないが、検察官の判断で訴追の必要がないと考えられるため、起訴をしない処分のことです。
【解説】
(1)起訴猶予の意義
刑事訴訟法248条により「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」と定められています。このように全ての犯罪を起訴するのではなく、検察官において必要性を選別して起訴すればよいという法制を起訴便宜主義といいます。このようなことが認められる理由は、刑罰の目的から説明できます。刑罰の目的には「社会秩序の維持」と「犯人の改善更生」の二つがありますが、軽微な事案では処罰しなくても社会秩序が維持できなくなるほどではないし、犯人が十分反省しているようならば改善更生も見込めます。このようなケースまで全部裁判をしていては費用も時間もかかって効率が悪いので、起訴の段階で選別してしまうのが合理的だという考え方なのです。
検察官の不起訴処分のうち、起訴猶予は統計上およそ9割を占めています。
(2)起訴猶予の効果
起訴猶予は起訴をしない処分なので、事件は裁判所に行かず、検察限りで終結します。裁判で有罪になることもないので、前科がつかず、前歴だけが残ることになります。被疑者が逮捕・勾留されている場合には、ただちに釈放されます。
したがって、被疑者となった方にとって、起訴猶予は早期の社会復帰の道といえます。
(3)起訴猶予の考慮要素
上記の条文に項目が列挙されていますが、さらに具体的には次のような事情が考慮されます。
①犯人の性格:性質、素行、遺伝、習慣、学歴、知能程度、経歴、前科前歴の有無、常習性の有無等
②犯人の年齢:特に、若年または老年、未婚の女子、学生等
③犯人の環境:家庭状況、居住地、職業、勤務先、生活環境、交友関係等、特に、両親その他監督保護者の有無、住居定職の有無
④犯罪の軽重:法定刑の軽重、法律上刑の加重減軽の事由の有無、被害の程度等
⑤犯罪の情状:犯罪の動機・原因・方法・手口、犯人の利得の有無、被害者との関係、犯罪に対する社会の関心、社会に与えた影響、模倣性等
⑥犯罪後の情況:犯人の反省の有無、謝罪や被害回復の努力、または逃亡や証拠隠滅等の行動、環境の変化、身柄引受人その他将来の監督者保護者の有無等環境調整の可能性の有無、被害者に対する被害弁償の有無、示談の成否、被害感情等、その他社会事情の変化、犯行後の経過年数、刑の変更等
捜査の対象となった時点で①〜⑤は過去の事実になっていますが、⑥はそれからの態度次第で変わっていく要素です。特に、弁護人を通じた被害者との示談交渉によって、被害弁償を実現し、謝罪の意思を伝え、被害者の宥恕(許すこと)の意思を書面でいただくことなどが可能になり、多くのケースでは起訴猶予になるかどうかの結果を大きく左右しています。
【参考条文】
刑事訴訟法第248条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
【関連用語】
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