用語集

前科(ぜんか)

【定義】

前科とは、過去に刑罰を受けた事実のことです。

【解説】

刑罰には死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の5種類があります。判決でこれらの刑が言い渡され、確定した事実があれば、死刑以外はいずれも前科になります。これに対し、逮捕されるなどして刑事手続には乗ったが有罪判決に至っていない場合には「前歴」があるといいます。
刑事手続の中で前科が持つ意味はいろいろあります。主なものとして、まず①起訴猶予や量刑の局面で、初犯の者よりは情状が重く評価されます。「前回も反省を述べたのにまたやった」とみられることで、通り一遍の反省の弁では真摯な反省の情を汲み取ってもらえない場合があります。また、②同種前科多数などの場合、勾留や保釈の判断に影響することが考えられ、身柄の解放がされにくい場合があります。そして③一定の前科は執行猶予の適用除外事由や執行猶予取消事由となります。さらに、④累犯加重といって一定の前科がある場合に通常よりも刑期を長くされることがあります。また、⑤常習累犯窃盗のように、一定の前科の存在が構成要件(罪となる事実)とされている特殊な類型の犯罪もあります。
刑事手続外では、⑥収賄罪等の一定の前科が公民権停止(選挙権と被選挙権の停止)事由とされています。そのほか、⑦一定の国家資格や公職に就くことができない欠格事由とされている場合があります。一般に公開はされないため民間の就職等に直接影響することはありませんが、ことさらに前科はないと申告する場合には、経歴詐称となる可能性もあります。
これらの効果の一部は、「刑の消滅」という制度により、懲役・禁固であれば執行終了から10年、罰金以下であれば執行終了から5年の経過をもって消滅します(刑法34条の2)。
このように前科がつくことには不利益が大きいのに対し、前歴であればあまり影響はないといえます。前科と前歴を分ける大きなポイントは起訴されるかどうかです。不起訴となるためには、示談をはじめとする捜査段階の弁護活動が非常に重要となります。

【参考条文】

刑法25条

第1項 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2項 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

刑法34条の2第1項 

禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
第2項 刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。

公職選挙法11条

第1項 次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 削除
二 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
四 公職にある間に犯した刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百九十七条 から第百九十七条の四 までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律 (平成十二年法律第百三十号)第一条 の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁錮以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者
第2項 この法律の定める選挙に関する犯罪に因り選挙権及び被選挙権を有しない者については、第二百五十二条の定めるところによる。
第3項 市町村長は、その市町村に本籍を有する者で他の市町村に住所を有するもの又は他の市町村において第三十条の六の規定による在外選挙人名簿の登録がされているものについて、第一項又は第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じたこと又はその事由がなくなつたことを知つたときは、遅滞なくその旨を当該他の市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。

第11条の2

公職にある間に犯した前条第一項第四号に規定する罪により刑に処せられ、その執行を終わり又はその執行の免除を受けた者でその執行を終わり又はその執行の免除を受けた日から五年を経過したものは、当該五年を経過した日から五年間、被選挙権を有しない。

【関連用語】

 

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