鑑定(かんてい)
【定義】
鑑定とは、特別の学識経験を持つ専門家に、その専門知識の内容や、専門知識を用いて認識・判断した内容を報告してもらうことです。捜査機関が嘱託する場合と、裁判所が命令する場合とがあります。
【解説】
①捜査のための鑑定
捜査機関は、捜査のために必要があれば、第三者たる専門家に鑑定を嘱託することができます(刑事訴訟法223条1項)。薬物事件などでよく例が見られます。
嘱託を受けた専門家は鑑定受託者と呼ばれます。鑑定そのものは意見を聞くだけなので、参考人に対する取調べと同じ性質の任意処分です。
ただし、鑑定をするために立入り、身体検査、物の破壊等の処分が必要となることがあり、そのような処分には強制力も必要です。
そこで、そのような処分が必要な場合には、捜査機関が裁判官に許可を請求し、鑑定処分許可状の発付を受けることにより、一定の処分を行えることとされています(同225条、168条)。
また、精神鑑定等の場合に被疑者の身柄拘束が必要になることもあり、そのために鑑定留置の制度もあります。鑑定留置も捜査機関から裁判官に請求し、鑑定留置状の発付を受けて行います(同224条、167条)。
鑑定の結果を記載した書面は鑑定書と呼びますが、鑑定受託者の鑑定書は②の鑑定人の鑑定書と同様に扱われ、裁判で証拠として用いられます(同321条4項準用)。
②証拠調べのための鑑定
裁判所は、専門家に鑑定を命じることができます(同165条)。
法律以外の専門分野については、裁判所も知識や判断力の補充を必要とする場合があるからです。鑑定人は、適格のある者の中から裁判所が選びます。
命令なので断る自由はなく、召喚に応じなければ過料や不出頭罪の適用がありますが、勾引まではされません(同150条、151条、171条)。
鑑定人は、鑑定前に宣誓をしなければなりません(同166条)。
鑑定のために必要な処分は、①の場合と同様、鑑定処分許可状の発付を受けて行います(同168条)。
また、鑑定留置も同様です(同167条)。
さらに、必要な資料を入手するために、裁判記録の閲覧謄写等も許可されます(刑事訴訟規則134条)。
鑑定人が作成した鑑定書は性質上正確性が高いため、一般の供述調書よりも緩やかな要件で証拠能力が認められます(刑事訴訟法321条4項)。
鑑定書ではなく証人尋問のスタイルにより、口頭で鑑定結果の報告をする場合もあります(鑑定人尋問。同174条)。
【参考条文】
刑事訴訟法 第160条
第1項 証人が正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだときは、決定で、10万円以下の過料に処し、かつ、その拒絶により生じた費用の賠償を命ずることができる。
第2項 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第161条
正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだ者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
第165条
裁判所は、学識経験のある者に鑑定を命ずることができる。
第166条
鑑定人には、宣誓をさせなければならない。
第167条
第1項 被告人の心神又は身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときは、裁判所は、期間を定め、病院その他の相当な場所に被告人を留置することができる。
第2項 前項の留置は、鑑定留置状を発してこれをしなければならない。
第3項 第1項の留置につき必要があるときは、裁判所は、被告人を収容すべき病院その他の場所の管理者の申出により、又は職権で、司法警察職員に被告人の看守を命ずることができる。
第4項 裁判所は、必要があるときは、留置の期間を延長し又は短縮することができる。
第5項 勾留に関する規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、第1項の留置についてこれを準用する。但し、保釈に関する規定は、この限りでない。
第6項 第1項の留置は、未決勾留日数の算入については、これを勾留とみなす。
第167条の2
第1項 勾留中の被告人に対し鑑定留置状が執行されたときは、被告人が留置されている間、勾留は、その執行を停止されたものとする。
第2項 前項の場合において、前条第1項の処分が取り消され又は留置の期間が満了したときは、第98条の規定を準用する。
第168条
第1項 鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができる。
第2項 裁判所は、前項の許可をするには、被告人の氏名、罪名及び立ち入るべき場所、検査すべき身体、解剖すべき死体、発掘すべき墳墓又は破壊すべき物並びに鑑定人の氏名その他裁判所の規則で定める事項を記載した許可状を発して、これをしなければならない。
第3項 裁判所は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。
第4項 鑑定人は、第1項の処分を受ける者に許可状を示さなければならない。
第5項 前三項の規定は、鑑定人が公判廷でする第1項の処分については、これを適用しない。
第6項 第131条、第137条、第138条及び第140条の規定は、鑑定人の第1項の規定によつてする身体の検査についてこれを準用する。
第169条
裁判所は、合議体の構成員に鑑定について必要な処分をさせることができる。但し、第167条第1項に規定する処分については、この限りでない。
第170条
検察官及び弁護人は、鑑定に立ち会うことができる。この場合には、第157条第2項の規定を準用する。
第171条
前章の規定は、勾引に関する規定を除いて、鑑定についてこれを準用する。
第172条
第1項 身体の検査を受ける者が、鑑定人の第168条第1項の規定によつてする身体の検査を拒んだ場合には、鑑定人は、裁判官にその者の身体の検査を請求することができる。
第2項 前項の請求を受けた裁判官は、第十章の規定に準じ身体の検査をすることができる。
第173条
第1項 鑑定人は、旅費、日当及び宿泊料の外、鑑定料を請求し、及び鑑定に必要な費用の支払又は償還を受けることができる。
第2項 鑑定人は、あらかじめ鑑定に必要な費用の支払を受けた場合において、正当な理由がなく、出頭せず又は宣誓若しくは鑑定を拒んだときは、その支払を受けた費用を返納しなければならない。
第174条
特別の知識によつて知り得た過去の事実に関する尋問については、この章の規定によらないで、前章の規定を適用する。
第321条
第1項 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 1 裁判官の面前(第157条の4第1項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異つた供述をしたとき。 2 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。 3 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
第2項 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
第3項 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第1項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
第4項 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。
刑事訴訟規則 第134条
第1項 鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判長の許可を受けて、書類及び証拠物を閲覧し、若しくは謄写し、又は被告人に対し質問場合若しくは証人を尋問する場合にこれに立ち会うことができる。
第2項 前項の規定にかかわらず、法第157条の4第3項に規定する記録媒体は、謄写することができない。
第3項 鑑定人は、被告人に対する質問若しくは証人の尋問を求め、又は裁判長の許可を受けてこれらの者に対し直接に問を発することができる。
【関連用語】
- 捜査機関(そうさきかん)
- 取調べ(とりしらべ)
- 参考人(さんこうにん)
- 任意捜査(にんいそうさ)
- 強制捜査(きょうせいそうさ)
- 証拠能力(しょうこのうりょく)
- 証拠調べ(しょうこしらべ)
- 証人尋問(しょうにんじんもん)
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