検証(けんしょう)
【定義】
検証とは、場所・物・人を対象として、強制的にその存在や状態を五官の作用を用いて認識する処分です。
【解説】
日常用語としての「検証」は、調べて確かめるといった意味の言葉です。
たとえば、犯行現場の状況、物の破壊状況、犯人の移動したルートなど、差押えや領置では対応できない場合には、捜査官が自ら感知した事実を調書に記録するという形で証拠化が図られます。
もっとも、その作業が誰のプライバシーも侵害せず関係人の協力を得て行えるのであれば、強制力は必要ないため、任意処分である実況見分として行われます(公道上で行う交通事故の状況の記録等)。
それに対して関係人の同意がない場合には、原則として令状を請求したうえで検証が行われます(刑事訴訟法218条1項)。実況見分と検証は、活動の性質は同じで強制力の有無に違いがあるのです。
検証の結果を記録した書面は検証調書といい、供述調書よりも緩やかな要件で証拠能力が認められます(321条3項)。
実況見分調書もその性質の類似性から、同様に扱われます。
①令状による検証
検証令状には検証すべき場所・物・人が明示され(219条1項)、この令状を処分対象者に示して執行します(110条、222条1項)。検証に際しては、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができます(129条、222条1項)。
②身体検査
身体検査は検証の一種として行うことができますが、特別な配慮が必要となるため、検証令状ではなく身体検査令状を用い(218条1項後段)、身体検査のための条件を付されることがあり(219条1項)、強制の態様もまずは罰金や過料による間接強制の方法によらなければならず、直接強制は慎重に行うこととされています(137条~140条、222条1項)。
③令状によらない検証
捜索・差押えと同様、逮捕の現場では令状なしの検証が認められています(220条1項2号)。また、すでに逮捕・勾留されている被疑者の指紋採取、足型採取、身長体重測定、写真撮影も令状なしで許されます(218条3項)。
【参考条文】
刑事訴訟法 第110条
差押状、記録命令付差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない。
第111条の2
差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。公判廷で差押え又は捜索をする場合も、同様である。
第112条
第1項 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行中は、何人に対しても、許可を得ないでその場所に出入りすることを禁止することができる。
第2項 前項の禁止に従わない者は、これを退去させ、又は執行が終わるまでこれに看守者を付することができる。
第114条
第1項 公務所内で差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行をするときは、その長又はこれに代わるべき者に通知してその処分に立ち会わせなければならない。
第2項 前項の規定による場合を除いて、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内で差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行をするときは、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者をこれに立ち会わせなければならない。これらの者を立ち会わせることができないときは、隣人又は地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない。
第118条
差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行を中止する場合において必要があるときは、執行が終わるまでその場所を閉鎖し、又は看守者を置くことができる。
第129条
検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。
第131条
第1項 身体の検査については、これを受ける者の性別、健康状態その他の事情を考慮した上、特にその方法に注意し、その者の名誉を害しないように注意しなければならない。
第2項 女子の身体を検査する場合には、医師又は成年の女子をこれに立ち会わせなければならない。
第137条
第1項 被告人又は被告人以外の者が正当な理由がなく身体の検査を拒んだときは、決定で、10万円以下の過料に処し、かつ、その拒絶により生じた費用の賠償を命ずることができる。
第2項 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第138条
第1項 正当な理由がなく身体の検査を拒んだ者は、10万円以下の罰金又は拘留に処する。
第2項 前項の罪を犯した者には、情状により、罰金及び拘留を併科することができる。
第139条
裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。
第140条
裁判所は、第137条の規定により過料を科し、又は前条の規定により身体の検査をするにあたつては、あらかじめ、検察官の意見を聴き、且つ、身体の検査を受ける者の異議の理由を知るため適当な努力をしなければならない。
第218条
第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
第2項 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
第3項 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。
第4項 第1項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。
第5項 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。
第6項 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。
第219条
第1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
第2項 前条第2項の場合には、同条の令状に、前項に規定する事項のほか、差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しなければならない。
第3項 第64条第2項の規定は、前条の令状についてこれを準用する。
第220条
第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第210条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。 1 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。 2 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
第2項 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。第123条第3項の規定は、この場合についてこれを準用する。
第3項 第1項の処分をするには、令状は、これを必要としない。 第4項 第1項第2号及び前項の規定は、検察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合にこれを準用する。被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する場合には、第1項第1号の規定をも準用する。
第222条
第1項 第99条第1項、第100条、第102条から第105条まで、第110条から第112条まで、第114条、第115条及び第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条、第220条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第110条、第111条の2、第112条、第114条、第118条、第129条、第131条及び第137条から第140条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条又は第220条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。
第2項 第220条の規定により被疑者を捜索する場合において急速を要するときは、第114条第2項の規定によることを要しない。
第3項 第116条及び第117条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条の規定によつてする差押え、記録命令付差押え又は捜索について、これを準用する。
第4項 日出前、日没後には、令状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がなければ、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第218条の規定によつてする検証のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることができない。但し、第117条に規定する場所については、この限りでない。
第5項 日没前検証に着手したときは、日没後でもその処分を継続することができる。
第6項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第218条の規定により差押、捜索又は検証をするについて必要があるときは、被疑者をこれに立ち会わせることができる。
第7項 第1項の規定により、身体の検査を拒んだ者を過料に処し、又はこれに賠償を命ずべきときは、裁判所にその処分を請求しなければならない。
【関連用語】
- 捜索(そうさく)
- 強制捜査(きょうせいそうさ)
- 任意捜査(にんいそうさ)
- 実況見分(じっきょうけんぶん)
- 令状主義(れいじょうしゅぎ)
- 証拠能力(しょうこのうりょく)
- 身体検査(しんたいけんさ)
- 通常逮捕(つうじょうたいほ)
- 勾留(こうりゅう)