取調べ(とりしらべ)
【定義】
刑事事件における取調べとは、警察官や検察官を始めとする捜査機関が、被疑者、被告人、参考人に対し事情を聴くことです。
【解説】
(1)取調べの意義
取調べによって捜査機関は事件の真相を解明し、新たな捜査方針を立てたり、証拠物を発見したりすることができます。そして、聴き取った内容を供述調書にまとめ、起訴されて裁判になった場合には、検察官が証拠として裁判所に提出することがあります。特に被疑者が自白している時は、その内容を録取した供述調書は重要な証拠となります。
(2)取調べの相手と手続き
被疑者に対しては、在宅事件であれば出頭を要請して、身柄事件であれば居房から身柄を移して取調べを行います。身柄事件の場合に取調べ受忍義務があるのかどうかについては論争があり、学説は否定傾向が強いですが、実務は肯定説に基づいて運用されているといわれています。そのため、居房から取調室への移動に際して、意思確認などは行われません。
被告人の場合、すでに裁判が始まっている事件に関しては、裁判で明らかにすべきという公判中心主義の要請があるため取調べは控えるべきとされていますが、全面禁止ではないので、必要に応じ取調べが行われることもあります。
参考人に対しては、出頭を要請することになります。
(3)取調べの方法
被疑者・被告人に対しては、取調べの前に必ず黙秘権の告知をしなければならないことになっています。参考人には黙秘権の告知は不要ですが、捜査の進展により参考人が被疑者に切り替わることもあるので、その際には黙秘権の告知が必要になります。
供述を録取した調書は、必ずその場で閲覧させるか読み聞かせをして、誤りがないかどうか確認します。供述者が加除訂正を申し立てれば、印刷した供述調書の末尾にその内容を手書きなどで付け加えます。その上で署名押印します。押印は拇印でよく、身柄拘束中の被疑者であればほとんど拇印です。
上述の通り、供述調書は裁判で証拠として用いられるものなので、誤りは徹底的に訂正すべきです。時間がない等の理由で訂正を拒否することは違法ですし、「〜とも読めるから大丈夫」等の説明は信用できません。裁判官が読んでどのような印象を受けるかが大事です。この段階で納得のいく内容の供述調書にしなければ、裁判で思わぬ不利益を被ることになりかねません。
当然ながら、取調べの中で捜査官が脅迫や暴行を行ったり、眠らせない、食事を摂らせないなどして追い詰めながら取調べることは違法です。自白調書がこのような不当な手段で獲得された場合、証拠にできないというルールがあります(自白法則)。問題のある取調べだと思った場合は、弁護人に面会を求め(留置係から被疑者が面会を求めているという連絡をしてもらうことができます)、相談すべきです。場合によっては弁護人が面会を利用して別途供述調書を作成し、違法な取調べの証明に役立てることも考えられます。
(4)供述調書の具体例
以下は被疑者に対する捜査で一般に見られる取調べと供述調書の具体例です。
まず、初期の取調べで被疑者の身上、経歴、犯罪歴、健康状態、体格、家族関係、経済状態などに関することを聴き、簡単にまとめた供述調書を作成します。続いて犯罪の内容に入ります。軽微な事件を除けば、数回の取調べを行い、数通の供述調書が作成されることが多いです。よくあるパターンとしては、まず犯行に至る経緯から犯行後の行動までを一連の流れで説明する供述調書を作り、その後に重要な点や否認を含む点、共犯者の供述との食い違いを含む点などについて重点的に供述調書を作っていくやり方が見られます。1回の取調べごとに1通の供述調書とは限らず、2回を1通にまとめたり、1回で2通作ったり、様々です。
供述調書は「私は〜しました」という本人の一人称形式の文章で作成されるのが通例ですが、黙秘している場合や、特に答え方が重要と思われる場合などに、取調官との問答をそのまま記載する形式で作成されることもあります。黙秘部分は「・・・」などと記載されます。用紙はA4で、1ページのものもあれば数十ページに及ぶものもあります。
(5)黙秘権行使による供述拒否
被疑者・被告人の黙秘権は、包括的黙秘権といわれ、有利不利を問わず、終始沈黙することができる権利です。ある日の取調べには答えたけれど、別の日には答えないということも可能です。ただし黙秘が裁判官への心証を含めてどの程度不利に働くかについては、弁護人によく相談されることをお勧めします。
【参考条文】
刑事訴訟法第198条
1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
2項
前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
3項
被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
4項
前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
5項
被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。
刑事訴訟法第223条
1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。
2項
第198条第1項但書及び第3項乃至第5項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
刑事訴訟法第319条1項
強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
【関連用語】
- 捜査機関(そうさきかん)
- 被疑者(ひぎしゃ)
- 被告人(ひこくにん)
- 参考人(さんこうにん)
- 供述調書(きょうじゅつちょうしょ)
- 在宅事件(ざいたくじけん)
- 身柄事件(みがらじけん)
- 自白(じはく)
- 黙秘権(もくひけん)