訴因変更(そいんへんこう)
【定義】
訴因変更とは、起訴状に記載された訴因または罰条を、審理の途中で追加・撤回・変更することです。
【解説】
たとえば、起訴状に「被告人は平成28年11月1日に・・町所在のA宅において・・を窃取したものである」と記載したところ、審理が進むにつれて犯行日が11月2日であることが明らかとなった場合、訴因に記載された事実が認められないとして無罪になり、検察官は別途11月2日で起訴をし直さなければならないとしたら、あまりにも無駄が多く、被告人にとっても不利益です。このため、審理の途中での訴因変更を認める必要があります。
しかし、上記の例で窃盗の事実から傷害の事実に変更したり、平成27年の事実に変更したりすることまで認めると、被告人の立場があまりに不安定になります。そこで、訴因変更には「公訴事実の同一性を害しない限度」という限界が設けられています(刑事訴訟法312条1項)。公訴事実の同一性とは、判例によれば、基本的な事実関係が同じで、社会通念上同一事実と認められることと解されています。
訴因変更の方法には2種類あり、①検察官が請求し、裁判所が許可する場合と、②裁判所が職権で訴因変更を命令する場合があります(同条2項)。
訴因変更が行われると、被告人にとっては防御の対象が変更されたことを意味しますから、起訴の時に準じて厳格に取り扱い、被告人に通知されます(刑事訴訟法312条3項)。検察官から請求する場合には原則として訴因変更申立書を提出し、それを被告人に送達し、公判期日に朗読します(刑事訴訟規則209条)。その際、変更後の訴因に対する罪状認否も実務上行われています。さらに、訴因変更により実質的な不利益が生ずる場合には公判手続の停止も求めることができます(刑事訴訟法312条4項)。
【参考条文】
刑事訴訟法第312条
第1項 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
第2項 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。
第3項 裁判所は、訴因又は罰条の追加、撤回又は変更があつたときは、速やかに追加、撤回又は変更された部分を被告人に通知しなければならない。
第4項 裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。
刑事訴訟規則
(訴因、罰条の追加、撤回、変更)
第209条 訴因又は罰条の追加、撤回又は変更は、書面を差し出してこれをしなければならない。
2前項の書面には、被告人の数に応ずる謄本を添附しなければならない。
3裁判所は、前項の謄本を受け取つたときは、直ちにこれを被告人に送達しなければならない。
4検察官は、前項の送達があつた後、遅滞なく公判期日において第一項の書面を朗読しなければならない。
5法第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつたときは、前項の規定による書面の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては、検察官は、被告人に第一項の書面を示さなければならない。
6法第二百九十条の三第一項の決定があつた場合における第四項の規定による書面の朗読についても、前項と同様とする。この場合において、同項中「被害者特定事項」とあるのは「証人等特定事項」とする。
7 裁判所は、第一項の規定にかかわらず、被告人が在廷する公判廷においては、口頭による訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許すことができる。
【関連用語】
訴因変更があった場合、変更後の訴因をよく確認し、新たな準備を必要とするような場合には公判手続の停止を求めるべきではないかなど、弁護人と相談すべきです。ご不安がある方は当事務所へご相談ください。名古屋エリア(愛知県・岐阜県・三重県)の即日面会に対応しております。