保釈(ほしゃく)
【定義】
保釈とは、裁判所が定めた額の保釈保証金を納付することを条件に、勾留中の被告人を暫定的に釈放する制度です。
【解説】
保釈が認められるのは起訴されて被告人となった後のみで、起訴前の被疑者段階では認められません(刑訴法207条1項但書)。起訴されると、公判の審理には数カ月かかるのが一般的ですから、勾留が続くことによる負担が大きいためです。
保釈は被告人、弁護人、一定の親族等から請求することができ(同88条)、請求があれば、法定の除外事由がない限り保釈が許可されます(同89条)。除外事由があっても裁判所の裁量で保釈が許可されることもあります(同90条)。
このように原則として保釈が許可されるような建前になっていますが、実際には罪証隠滅のおそれ等の除外事由が広く認められるので、許可を得るのはそう簡単ではありません。裁判所が公表している司法統計というデータによれば、近年では、保釈請求に対する保釈許可率は50〜60%となっています。許可を得るためには、身元引受人の方を用意し、除外事由のないこと、保釈が必要かつ相当であることについて説得的な資料を示しながら保釈請求を行うことが有用です。
住居制限、旅行には許可を要する、事件関係者に面会しない等の条件を付けて保釈が許可されることもあります(同93条3項)。条件に違反すると保釈が取り消されることもあるので注意が必要です(同96条1項5号)
保釈が許可される場合、必ず保釈保証金が定められ(同93条1項)、これを納付してからでないと釈放されません(同94条1項)。
保証金は被告人の出頭を確保する担保の役割を有するので、被告人の資力等に応じて、個々のケースごとに相当な金額が定められます(同93条2項)。近年では100万〜300万円となることが多いようです。
納付した保証金は、何事もなければ後に還付されますが(刑事訴訟規則91条)、実刑判決を受けたのに出頭しないようなことがあると没取されます(同96条2項、3項)。
【参考条文】
刑事訴訟法第88条
・第1項
勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。
・第2項
第82条第3項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
刑事訴訟法第89条
保釈の請求があったときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
1 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
2 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
3 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
4 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
5 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
6 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
刑事訴訟法第90条
裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
刑事訴訟法第93条
・第1項
保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
・第2項
保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
・第3項
保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
刑事訴訟法第94条
・第1項
保釈を許す決定は、保証金の納付があった後でなければ、これを執行することができない。
・第2項
裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
・第3項
裁判所は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
刑事訴訟法第96条
・第1項
裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
1 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
2 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
4 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
5 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
・第2項
保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部または一部を没取することができる。
・第3項
保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。
刑事訴訟法第207条1項
前3条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
刑事訴訟法第205条第1項
検察官は、第203条の規定により送致された被疑者を受け取ったときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
刑事訴訟法第207条1項
前3条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
刑事訴訟規則第91条
・第1項
次の場合には、没取されなかった保証金は、これを還付しなければならない。
1 勾留が取り消され、又は勾留状が効力を失ったとき。
2 保釈が取り消され又は効力を失ったため被告人が刑事施設に収容されたとき。
3 保釈が取り消され又は効力を失った場合において、被告人が刑事施設に収容される前に、新たに、保釈の決定があって保証金が納付されたとき又は勾留の執行が停止されたとき。
・第2項
前項第3号の保釈の決定があったときは、前に納付された保証金は、あらたな保証金の全部又は一部として納付されたものとみなす。