起訴(きそ)
【定義】
起訴とは、検察官が裁判所に対し、犯罪事実について審判を求める意思表示です。公訴の提起ともいいます。
【解説】
(1)起訴の意義
検察官は、公訴の提起を独占的に担当する国家機関であり、微罪処分など一部の例外を除きすべての事件が検察官の手元に集められる仕組みになっています。そして、検察官が一つ一つの事件について、起訴するか不起訴にするかの判断をしています。このように、検察官が事件を選別することを事件処理といいます。
検察官が検討した結果、嫌疑が十分に認められ、訴訟条件も問題なく、起訴猶予すべき案件でもないと判断されれば、起訴されます。
検察官は起訴状の提出と同時に、略式命令請求をすることもできます。略式命令とは、法廷で裁判を開くことなく簡易裁判所がスピーディに判断を下すことができる手続きで、罰金または科料に当たる罪について認められます。略式命令を伴なわない単なる起訴は「公判請求」とも呼ばれます。
平成27年版の犯罪白書によれば、平成26年の全国の検察官による事件処理人員約124万人のうち、公判請求は約9万人、略式命令請求が約29万人です。
(2)起訴の手続き
起訴をするには、検察官が必ず起訴状を作成し、裁判所に提出して行います。
起訴状には①被告人を特定するに足りる事項(氏名、年齢、職業、住居、本籍等)、②公訴事実、③罪名を記載します(刑事訴訟法256条1項)。このうち②公訴事実というのが、検察官が犯罪に該当すると考えて審判を求める具体的な事実であり、たとえば「被告人は、平成◯年◯月◯日◯時頃、△市△△先路上において、□□に対し、〜〜したものである。」というようなスタイルで日時や場所、行為態様や行為対象等を特定して記載されます。ここには犯罪を構成する事実が漏れなく記載されなければなりませんが、同時に、余計なことは記載してはいけないことになっています(同条6項)。なぜなら、起訴状にあれこれ書けばどうしても検察官の言い分に偏った見方を裁判所が持ってしまうからです。このルールを「起訴状一本主義」といい、その狙いである裁判所に予断を抱かせないようにするという考え方を「予断排除の原則」といいます。
(3)起訴後の手続き
起訴状の提出により、刑事事件は裁判所に係属し、被疑者は被告人の立場になります。裁判所は、起訴状と同時に受け取った起訴状謄本を、直ちに被告人に送達します(刑事訴訟法271条、刑事訴訟規則176条))。
公判請求の場合は、その後第1回期日が指定され、第1回期日の法廷で検察官が起訴状を朗読します(刑事訴訟法291条1項)。慣行として多くの検察官が、起訴状の文面を朗読した後に付け加えて「以上につき、ご審理願います」と述べるところに、起訴の本質が現れています。被告人は、起訴状朗読に引き続いて「間違いありません」「身に覚えがありません」などと罪状認否をし(黙秘もできます)、弁護人がさらに法律的な見地から意見を述べる、というのが通常の流れです。このように、起訴状に記載された公訴事実が審理の対象となり、それをめぐって検察側と弁護側が主張と証拠を出し合うという構造になっています。
なお、起訴後は保釈請求が可能になるので、被疑者段階から身柄拘束されていた被告人にとっては身柄解放を目指す新たな局面となります。弁護人を通じ環境を整えた上で保釈請求をすることが有用でしょう。
起訴前に選任した弁護人は、起訴後も第一審では改めて選任を要さずに引き続き弁護人となります(刑事訴訟法32条1項)。
【参考条文】
刑事訴訟法第32条
第1項 公訴の提起前にした弁護人の選任は、第一審においてもその効力を有する。
刑事訴訟法第247条
公訴は、検察官がこれを行う。
刑事訴訟法第256条
第1項 公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。
第2項 起訴状には、左の事項を記載しなければならない。
一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二 公訴事実
三 罪名
第3項 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
第4項 罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し、罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
第5項 数個の訴因及び罰条は、予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
第6項 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。
刑事訴訟法第271条
第1項 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない。
第2項 公訴の提起があつた日から二箇月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
刑事訴訟法第291条
第1項 検察官は、まず、起訴状を朗読しなければならない。
第2項 第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつたときは、前項の起訴状の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては、検察官は、被告人に起訴状を示さなければならない。
第3項 前条第一項の決定があつた場合における第一項の起訴状の朗読についても、前項と同様とする。この場合において、同項中「被害者特定事項」とあるのは、「証人等特定事項」とする。
第4項 裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。
【関連用語】
- 微罪処分(びざいしょぶん)
- 不起訴(ふきそ)
- 起訴猶予(きそゆうよ)
- 被告人(ひこくにん)
- 訴訟条件(そしょうじょうけん)
- 略式命令(りゃくしきめいれい)
- 訴因(そいん)
- 係属(けいぞく)
- 送達(そうたつ)
- 冒頭手続き(ぼうとうてつづき)
- 罪状認否(ざいじょうにんぴ)
- 保釈(ほしゃく)
- 第一審(だいいっしん)
起訴されて裁判が始まると法律的なやりとりも多くなり、不安も増えると思います。ご家族の方からでも結構ですので、遠慮なく当時事務所までご相談ください。身柄拘束中の方に対しては、名古屋エリア内(愛知県・岐阜県・三重県)につき即日の面会を実施しております。