保護観察(ほごかんさつ)
【定義】
保護観察とは、犯罪を犯した人や非行のある少年を保護観察官と保護司が社会生活の中で指導・支援し、更生に導く制度です。
【解説】
刑事事件では、有罪判決で執行猶予がつけられる場合に保護観察に付されることがあります(刑法25条の2、27条の3)。また、実刑で服役後に仮釈放されれば必ず保護観察に付されます(更生保護法40条)。このほか、少年事件で保護処分として保護観察が選択される場合(少年法24条1項1号)、少年院からの仮退院の場合(更生保護法42条)、売春防止法が定める婦人補導院からの仮退院の場合(売春防止法26条)に保護観察が用いられます。
保護観察は対象者を更生させて再犯・再非行を防止するという重要な刑事政策的な意義をもつものです。そのための手法には厳しい側面(指導監督)と優しい側面(補導援護)があります。指導監督とは、対象者の行状を把握し、遵守事項や生活行動指針を守って生活するよう指示し、薬物依存等に対応した専門的処遇を実施することです(更生保護法57条)。補導援護とは、対象者が自立した生活を送るために住居、医療、職業、教育その他生活全般にわたるサポートを与えることです(同58条)。保護観察の遵守事項には全対象者に適用される一般遵守事項(同50条)と対象者に応じて定められる特別遵守事項(同51条)があります。これらを守らない場合、執行猶予の取消しや仮釈放の取消し等の処分を受けることがあります。
【参考条文】
刑法第25条
第1項 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2項 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
刑法第25条の2
第1項 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
第2項 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
第3項 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。
刑法第27条の2
第1項 次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2項 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
第3項 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。
刑法第27条の3
第1項 前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。
第2項 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
第3項 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。
少年法24条
第1項 家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし、決定の時に十四歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第三号の保護処分をすることができる。
一 保護観察所の保護観察に付すること。
二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
三 少年院に送致すること。
第2項 前項第一号及び第三号の保護処分においては、保護観察所の長をして、家庭その他の環境調整に関する措置を行わせることができる。
売春防止法第17条
第1項 第五条の罪を犯した満二十歳以上の女子に対して、同条の罪又は同条の罪と他の罪とに係る懲役又は禁錮につきその刑の全部の執行を猶予するときは、その者を補導処分に付することができる。
第2項 補導処分に付された者は、婦人補導院に収容し、その更生のために必要な補導を行う。
売春防止法第25条
第1項 地方更生保護委員会(以下「地方委員会」という。)は、補導処分に付された者について、相当と認めるときは、決定をもつて、仮退院を許すことができる。
売春防止法第26条
第1項 仮退院を許された者は、補導処分の残期間中、保護観察に付する。
更生保護法第48条
次に掲げる者(以下「保護観察対象者」という。)に対する保護観察の実施については、この章の定めるところによる。
一 少年法第二十四条第一項第一号 の保護処分に付されている者(以下「保護観察処分少年」という。)
二 少年院からの仮退院を許されて第四十二条において準用する第四十条の規定により保護観察に付されている者(以下「少年院仮退院者」という。)
三 仮釈放を許されて第四十条の規定により保護観察に付されている者(以下「仮釈放者」という。)
四 刑法第二十五条の二第一項 若しくは第二十七条の三第一項 又は薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項 の規定により保護観察に付されている者(以下「保護観察付執行猶予者」という。)
更生保護法第49条
第1項 保護観察は、保護観察対象者の改善更生を図ることを目的として、第五十七条及び第六十五条の三第一項に規定する指導監督並びに第五十八条に規定する補導援護を行うことにより実施するものとする。
第2項 保護観察処分少年又は少年院仮退院者に対する保護観察は、保護処分の趣旨を踏まえ、その者の健全な育成を期して実施しなければならない。
更生保護法第50条
第1項 保護観察対象者は、次に掲げる事項(以下「一般遵守事項」という。)を遵守しなければならない。
一 再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること。
二 次に掲げる事項を守り、保護観察官及び保護司による指導監督を誠実に受けること。
イ保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは、これに応じ、面接を受けること。
ロ保護観察官又は保護司から、労働又は通学の状況、収入又は支出の状況、家庭環境、交友関係その他の生活の実態を示す事実であって指導監督を行うため把握すべきものを明らかにするよう求められたときは、これに応じ、その事実を申告し、又はこれに関する資料を提示すること。
三 保護観察に付されたときは、速やかに、住居を定め、その地を管轄する保護観察所の長にその届出をすること(第三十九条第三項(第四十二条において準用する場合を含む。次号において同じ。)又は第七十八条の二第一項の規定により住居を特定された場合及び次条第二項第五号の規定により宿泊すべき特定の場所を定められた場合を除く。)。
四 前号の届出に係る住居(第三十九条第三項又は第七十八条の二第一項の規定により住居を特定された場合には当該住居、次号の転居の許可を受けた場合には当該許可に係る住居)に居住すること(次条第二項第五号の規定により宿泊すべき特定の場所を定められた場合を除く。)。
五 転居又は七日以上の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長の許可を受けること。
第2項 刑法第二十七条の三第一項 又は薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項 の規定により保護観察に付する旨の言渡しを受けた者(以下「保護観察付一部猶予者」という。)が仮釈放中の保護観察に引き続きこれらの規定による保護観察に付されたときは、第七十八条の二第一項の規定により住居を特定された場合及び次条第二項第五号の規定により宿泊すべき特定の場所を定められた場合を除き、仮釈放中の保護観察の終了時に居住することとされていた前項第三号の届出に係る住居(第三十九条第三項の規定により住居を特定された場合には当該住居、前項第五号の転居の許可を受けた場合には当該許可に係る住居)につき、同項第三号の届出をしたものとみなす。
更生保護法第51条
第1項 保護観察対象者は、一般遵守事項のほか、遵守すべき特別の事項(以下「特別遵守事項」という。)が定められたときは、これを遵守しなければならない。
第2項 特別遵守事項は、次条に定める場合を除き、第五十二条の定めるところにより、これに違反した場合に第七十二条第一項、刑法第二十六条の二 、第二十七条の五及び第二十九条第一項並びに少年法第二十六条の四第一項 に規定する処分がされることがあることを踏まえ、次に掲げる事項について、保護観察対象者の改善更生のために特に必要と認められる範囲内において、具体的に定めるものとする。
一 犯罪性のある者との交際、いかがわしい場所への出入り、遊興による浪費、過度の飲酒その他の犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしてはならないこと。
二 労働に従事すること、通学することその他の再び犯罪をすることがなく又は非行のない健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行し、又は継続すること。
三 七日未満の旅行、離職、身分関係の異動その他の指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上又は身分上の特定の事項について、緊急の場合を除き、あらかじめ、保護観察官又は保護司に申告すること。
四 医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること。
五 法務大臣が指定する施設、保護観察対象者を監護すべき者の居宅その他の改善更生のために適当と認められる特定の場所であって、宿泊の用に供されるものに一定の期間宿泊して指導監督を受けること。
六 善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと。
七 その他指導監督を行うため特に必要な事項
更生保護法第57条
第1項 保護観察における指導監督は、次に掲げる方法によって行うものとする。
一 面接その他の適当な方法により保護観察対象者と接触を保ち、その行状を把握すること。
二 保護観察対象者が一般遵守事項及び特別遵守事項(以下「遵守事項」という。)を遵守し、並びに生活行動指針に即して生活し、及び行動するよう、必要な指示その他の措置をとること。
三 特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を実施すること。
第2項 保護観察所の長は、前項の指導監督を適切に行うため特に必要があると認めるときは、保護観察対象者に対し、当該指導監督に適した宿泊場所を供与することができる。
更生保護法第58条
保護観察における補導援護は、保護観察対象者が自立した生活を営むことができるようにするため、その自助の責任を踏まえつつ、次に掲げる方法によって行うものとする。
一 適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること。
二 医療及び療養を受けることを助けること。
三 職業を補導し、及び就職を助けること。
四 教養訓練の手段を得ることを助けること。
五 生活環境を改善し、及び調整すること。
六 社会生活に適応させるために必要な生活指導を行うこと。
七 前各号に掲げるもののほか、保護観察対象者が健全な社会生活を営むために必要な助言その他の措置をとること。
更生保護法第61条第1項 保護観察における指導監督及び補導援護は、保護観察対象者の特性、とるべき措置の内容その他の事情を勘案し、保護観察官又は保護司をして行わせるものとする。
第2項 前項の補導援護は、保護観察対象者の改善更生を図るため有効かつ適切であると認められる場合には、更生保護事業法 (平成七年法律第八十六号)の規定により更生保護事業を営む者その他の適当な者に委託して行うことができる。
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