刑事犯罪集

痴漢(迷惑防止条例違反)

【法令・条文】

愛知県迷惑行為防止条例

第2条の2(卑わいな行為の禁止)

第1項
何人も、公共の場所又は公共の乗物(第三項に定めるものを除く。)において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

一  人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物(以下「衣服等」という。)の上から触れること。

二  衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。

三  前号に掲げる行為をする目的で、写真機、ビデオカメラその他の機器(以下「写真機等」という。)を設置し、又は衣服で覆われている人の身体若しくは下着に向けること。

四  前三号に掲げるもののほか、人に対し、卑わいな言動をすること。

(第2項以下省略)

第15条(罰則)

第1項
第2条の2又は第2条の3第1項の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

第2項
常習として前項の違反行為をした者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

【法定刑】

  • 1年以下の懲役
  • 100万円以下の罰金
    (常習の場合)
  • 2年以下の懲役
  • 100万円以下の罰金

【解説】

(1)愛知県迷惑行為防止条例

いわゆる迷惑防止条例とは、痴漢行為、盗撮行為、ストーカー行為のほか、粗野な言動、ダフ屋行為、押し売り行為などの典型的な迷惑行為を規制する内容で、国の法律でなく、各都道府県の条例として定められているものです。

平成31年(2019年)の条例改正により、愛知県の迷惑防止条例は正式名称が「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」から「愛知県迷惑行為防止条例」に変わり、痴漢や盗撮に対する罰則が重くなりました。

痴漢行為は、同条例の2条の2第1項1号で禁止されています。

公共の場所」とは、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、飲食店等です。

公共の乗物」とは、汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機等です。

これらのいずれかにおいて、正当な理由なく、人の身体に触れることが禁止されています。

触れる身体の部位は限定されていません。直接か、衣服の上から触るかも問いません。

ただし、人を著しく羞恥させるような方法、または人に不安を覚えさせるような方法で行った場合に限ります。したがって、呼び止めるために肩に手をかけるような行為は原則として対象外です。

法定刑は、改正前の6月以下の懲役/50万円以下の罰金から上限がそれぞれ引き上げられました。

(2)他の都道府県の条例

迷惑防止条例で規制される行為は各都道府県間でおおむね共通していますが、条文の並び方や文言が異なるほか、行為の分類の仕方や行為の要件にも少しずつ違いがあり、同じ行為の罰則が異なる場合もあります。

痴漢行為に関しては、他の都道府県における罰則は6月以下の懲役/100万円以下の罰金または6月以下の懲役/50万円以下の罰金であることが多く、愛知県は罰則が比較的重いと言えます。

(3)不同意わいせつ罪

一般的に「痴漢」と呼ぶ行為のうち、一部は本罪ではなく不同意わいせつ罪に該当しうることに注意が必要です。不同意わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役であり、迷惑防止条例違反と比べてかなり重くなります。

不同意わいせつ罪は「暴行又は脅迫を用い」たり、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない」行為等により「わいせつな行為を」する犯罪です(刑法176条)。独立した暴力行為がなくても、痴漢行為そのものが不同意わいせつ罪における「暴行」と評価される場合があります。

また、いわゆる痴漢の場合、「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない」行為と評価される可能性があります。そのため、痴漢行為についても、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。

どちらの罪名で起訴するかは、検察官が捜査結果に基づいて判断します。逮捕勾留された段階の罪名と起訴される際の罪名が異なることもあります。

(4)性的姿態等撮影罪

また、一般的に「盗撮」と呼ぶ行為については、令和5年6月の法改正(同年7月から施行)により、性的姿態等撮影罪に該当することとなります。性的姿態等撮影罪の法定刑は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金であり、迷惑防止条例違反と比べて重くなります。

性的姿態等撮影罪は、正当な理由がないのに、ひそかに、「性的姿態等」(性的な部位、身に着けている下着、わいせつな行為・性交等がされている間における人の姿)を撮影した場合等に成立します。

また、未遂も罰せられます(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項1号、2項)。そのため、迷惑防止条例で定められている「盗撮」と呼ばれる行為については、性的姿態等撮影罪が成立する可能性が高いといえます。

どちらの罪名で起訴するかは、検察官が捜査結果に基づいて判断します。逮捕勾留された段階の罪名と起訴される際の罪名が異なることもあります。

(5)非親告罪

愛知県迷惑行為防止条例違反、不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪はいずれも非親告罪です。

したがって、検察官が事件を起訴する際に、被害者の告訴は不要です。

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