冒頭手続き(ぼうとうてつづき)
【定義】
冒頭手続とは、刑事裁判で公判が開かれて最初に行うことになっている一連の手続きのことで、人定質問、起訴状朗読、黙秘権の告知、罪状認否がこれに含まれます。
【解説】
刑事裁判の公判手続には大きく分けて①冒頭手続、②証拠調べ、③弁論、④判決言渡の段階があります。自白事件であれば、第1回公判期日で①〜③を一気に済ませる例もしばしば見られます。否認事件で複雑な事案になると②が複数期日に渡って行われたりもします。いずれにしても、①は第1回公判期日で済ませることがほとんどです。
刑事裁判は検察官が主張する事実が証拠により認められるかどうか、認められるとしてどのくらいの刑を科すべきかを裁判所が決める手続です。②証拠調べでは、検察側・弁護側双方により事実を立証するための活動が行われます。その結果に基づいて③論告・弁論で検察側・弁護側がそれぞれ意見を述べ、その意見も踏まえて裁判所が判決を書き、④判決言渡で宣告します。①冒頭手続は、それら実質的な審理の前提としてどのような犯罪事実が問題となっているのかという審理のテーマを設定し、適正な手続きのために最低限必要な被告人の同一性確認と権利告知を行うとともに、その認否によって審理のおおまかな見通しを立てる手続といえます。
以下、冒頭手続に含まれる各手続について説明します。
(1)人定質問
刑事訴訟規則により、検察官の起訴状朗読に先立ち、裁判所が被告人に人違いでないかどうかを確かめる質問をしなければならないとされています(刑事訴訟規則196条)。実際の裁判では、起訴状に記載された氏名、本籍、住居、職業を見ながら、被告人にそれぞれ自分で答えてもらって確認をしています。被告人がよく覚えていなかったり言い間違えたりすると、「・・・と書いてありますが間違いないですか」と助け船が出されることもあります。
人定質問に続き、簡単な言葉で被告人に手続の説明がされることもあります。「これから、あなたについての裁判をします。初めに検察官が起訴状を朗読しますから、よく聞いていてください。」などです。
(2)起訴状朗読
起訴状は既に裁判所に提出され、被告人に対しても送達されていますが、公判手続の初めに改めて検察官が読み上げなければならないこととされています(刑事訴訟法291条1項)。起訴状に意味のわからないところがあれば、朗読の後に質問して釈明を求めることができます。
(3)権利の告知
起訴状朗読の後、被告人の権利について裁判長から説明があります(刑事訴訟法291条3項)。「今、検察官が読み上げた起訴状について、これからあなたに質問をしますが、その前に、あなたの権利についてお話しします。」などと言って、①被告人には黙秘権があること、つまり、終始沈黙していてもよいし、個々の質問に対して陳述を拒んでもよいこと、②任意に陳述することもできるが、陳述した場合にはその内容が有利にも不利にも証拠となりうることが説明されます。
(4)罪状認否
一般的に罪状認否と呼びますが、条文の用語では「被告事件についての陳述」です。先に被告人に向けて、「起訴状の中で、何か間違っていることがありますか」などと質問があります。これに対して「間違いありません」「〇〇はその通りですが、△△は覚えがありません」などと答えて罪状認否をします。続いて、「弁護人、いかがですか」と弁護人の陳述も求められるので、弁護人が被告人の述べたことに基づいて法律的な見解を交えた陳述を行うのが通常です。争うところがない全面自白であれば、「被告人と同意見です」と簡単に述べます。
ここで述べる内容は今後の裁判の流れを大きく左右する重要なものですので、事前に弁護人とよく打ち合わせしておく必要があります。
ここまでで、冒頭手続は終了です。この後、証拠調べの段階に移ります。
【参考条文】
刑事訴訟法第291条
第1項 検察官は、まず、起訴状を朗読しなければならない。
刑事訴訟規則196条
裁判長は、検察官の起訴状の朗読に先立ち、被告人に対し、その人違でないことを確かめるに足りる事項を問わなければならない。
【関連用語】