判決の種類・執行猶予付き判決
判決の種類・分類
刑事裁判で言い渡される判決には、次表のとおり、いくつかの種類・パターンがあります。その大きな分類は、有罪判決か無罪判決かです。実務上は、多くの刑事裁判で有罪判決が言い渡され、犯罪の成立を争わない自白事件における被告人の主な関心は、実刑判決なのか執行猶予付き判決なのかという点にあります。
→各刑罰の種類や違いについては、こちら「刑事事件の基礎知識:刑罰の種類」をご覧下さい。
無罪判決 | 起訴された犯罪について、刑事裁判での審理を経た結果、無罪とされる判決です。 判決主文の例:被告人を無罪とする |
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有罪判決 |
起訴された犯罪について、刑事裁判での審理を経た結果、有罪となり、それに対する刑罰が言い渡され、かつ、刑罰が執行される判決です。 判決主文の例:被告人を懲役○年○月に処する。
起訴された犯罪について、刑事裁判での審理を経た結果、有罪となり、それに対する刑罰が言い渡されますが、刑罰の全部の執行が猶予される判決です。 判決主文の例:被告人を懲役○年○月に処する。この裁判確定の日から3年間その刑の全部の執行を猶予する。
起訴された犯罪について、刑事裁判での審理を経た結果、有罪となり、それに対する刑罰が言い渡されますが、刑罰の一部の執行が猶予される判決です。刑の一部の執行猶予付き判決では、猶予期間中、被告人を保護観察に付するものが多いです。 判決主文の例:被告人を懲役○年○月に処する。その刑の一部である懲役1年の執行を2年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
起訴された犯罪について、刑事裁判での審理を経た結果有罪となるものの、それに対する刑罰は科されない、刑が免除される判決です。 判決主文の例:被告人に対する刑を免除する。 |
その他 |
起訴された事件について、当該裁判所に管轄がない場合に言い渡される判決です。
刑事裁判を開くための条件(訴訟条件といいます)を欠いているとして、起訴(公訴の提起)を棄却する判決です。
公訴権(起訴する権限)が消滅したとして、裁判を打ち切る判決です。 |
解説・説明
無罪判決
無罪判決は、刑事裁判で審理を開き、証拠調べを行った結果、被告人を有罪とするに十分な証拠がない場合に、言い渡される判決です。
実刑判決
実刑判決は、有罪判決であり、判決が確定すると、刑罰が執行(実行)される判決です。
懲役刑や禁固刑であれば、刑務所等へ収容されることになります。
執行猶予付き判決
次項で詳細に述べます。
刑の免除判決
刑の免除判決は、有罪だけれども刑罰を科さない・免除するという判決です。
過剰防衛(刑法36条2項)、中止犯(同法43条但書)、自首(同法80条)、親族間の犯罪のための犯人蔵匿等(同法105条)や被害者が軽傷な場合の交通事故(自動車運転処罰法5条)など、法律上、刑の免除が規定されている場合のみ、刑を免除することができます。
管轄違いの判決
管轄のある裁判所に起訴されなければなりません。管轄のない裁判所に起訴された場合、判決で管轄違いを言い渡さなければなりません(刑事訴訟法329条)。
公訴棄却
公訴棄却は、判決でなされる場合と決定でなされる場合があります。
公訴棄却判決は、親告罪について告訴がないまま起訴した場合など、刑事裁判の重大な要件を欠いて起訴された場合に、口頭弁論(審理)を開いた上で、裁判所から棄却が言い渡されます(刑事訴訟法338条)。
公訴棄却決定は、犯罪でない事実を起訴した場合など、刑事裁判の要件を欠いていることが明らかな場合に、口頭弁論を開かないで、裁判官が棄却を言い渡します(同法339条)。
免訴判決
免訴判決は、公訴時効が成立した場合など、有罪・無罪に関わらず、公訴権が消滅したことを理由に、刑事裁判を打ち切る判決です(刑事訴訟法337条)。
執行猶予付き判決について
●刑の全部の執行猶予とは
刑の全部の執行猶予とは、判決によって言い渡された刑罰の執行を猶予することをいいます。
例えば、「被告人を懲役1年2月に処する。この裁判確定の日から3年間その刑の全部の執行を猶予する。」という判決が言い渡された場合、1年2月の懲役刑の執行を、3年間猶予することになります。
1年以上5年以下の期間、刑の全部の執行猶予をすることが認められています(刑法25条)。
●刑の全部の執行猶予期間中、刑が執行されなかった場合の効果
刑の全部の執行猶予が取り消されることなく執行猶予期間が経過した場合、刑の言い渡しは効力を失います(刑法27条)。
つまり、刑罰は言い渡されなかったことと同じ状態になり、刑は執行されません。
●刑の全部の執行猶予の条件
刑の全部の執行猶予は、次の条件をいずれも満たす場合に認められる可能性があります。
- 3年以下の懲役若しくは禁錮刑又は50万円以下の罰金刑を言い渡す場合であること
- 執行猶予にすべき情状があること ※
- 禁錮以上の前科がないこと
※禁錮以上の前科があっても、その前科の刑の執行終了又は免除から5年間、禁錮以上の刑に処せられていない場合は、刑の全部の執行猶予が認められる可能性があります。
※執行猶予にすべき情状について、詳しくは、「執行猶予にしてほしい」へ
●刑の全部の執行猶予の取消し
刑の全部の執行猶予は、取り消されることがあります。刑の全部の執行猶予が取り消されれば、直ちに刑罰が執行され、懲役刑・禁錮刑であれば、刑務所等に収容されることになります。
刑の全部の執行猶予は、刑の全部の執行猶予期間中に禁錮以上の実刑判決が言い渡された場合などの場合、必ず取り消されます。
この場合、新たに言い渡された刑罰と、執行が猶予されていた刑罰を合わせて、刑が執行されることになります。
例えば、先ほどの例で、先に「懲役1年2月、刑の全部の執行猶予3年」の判決が言い渡されており、後に「懲役2年」の実刑判決が言い渡され、刑の全部の執行猶予が取り消された場合、計3年2月の懲役刑が執行されることになります。
その他、刑の全部の執行猶予期間中に罰金刑に処されたり(実刑)、保護観察など遵守事項に違反した場合などにも取り消される可能性があります。
●再度の刑の全部の執行猶予
執行猶予期間中に犯罪を犯した場合であっても、保護観察に付されていない場合で、かつ、次の条件を満たす場合、新たに犯した罪について再度刑の全部の執行猶予が付与され、刑の全部の執行猶予が取り消されないことがあります。
新たに犯した罪について、
- 1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しがないこと
- 情状に特に酌量すべきものがあること
●刑の一部の執行猶予とは
刑の一部の執行猶予とは、判決によって言い渡された刑罰の一部の執行を猶予することをいいます。
例えば、「被告人を懲役1年4月に処する。その刑の一部である懲役4月の執行を2年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。」という判決が言い渡された場合、まず被告人に執行が猶予されなかった期間である懲役1年の部分の執行がされ、当該部分の執行期間を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、猶予された4月部分の刑の執行を、2年間猶予します。
執行猶予が取り消されずにこの2年間の猶予期間が満了すれば、猶予された4月部分の執行はされないことになります。
刑の一部の執行猶予は、平成28年6月1日から施行された制度です。薬物使用の罪等について、従来であれば実刑相当であった事案で、再発防止や改善更生を図るための新しい選択肢であると説明されています。