刑事弁護の基礎知識

前科・前歴の違い

前科とは、前歴とは

前科と前歴は、一般的には混同されがちですが、刑事事件、刑事弁護では、全く異なるものです。

前科とは、有罪判決を受けた経歴のことをいいます。

懲役刑・禁錮刑だけでなく、罰金刑であっても、有罪であれば前科になります。
また、実刑か執行猶予付き判決かにも関わらず、前科は付くことになります。

これに対し、前歴とは、有罪判決に至らない犯罪歴、つまり、捜査機関に犯罪の嫌疑をかけられ捜査の対象にされた経歴のことをいいます。

逮捕されても、必ずしも有罪判決を受けるとは限りません。警察において微罪(軽微な事件)として処理される場合もありますし、検察において不起訴処分となる場合もあります。このような場合には、前科はつかず、前歴のみが残ることになります。

なお、前科も前歴も、法律によって明確に定義付けされた言葉ではありません。

刑法上、執行猶予付き判決であれば執行猶予期間を無事経過したときに刑の言渡しは効力を失うとされています(刑法27条)。

また、実刑判決であっても刑の執行を終えたときから罰金以上の刑に処せられることなく10年が経過すれば、刑の言渡しは効力を失います(刑法34条の2)。刑法上は、これらの期間経過によって前科の効力がなくなる扱いになります。

前科と前歴―刑事事件・刑事弁護における違い―

刑事事件・刑事手続きにおいて、前科や前歴の有無は、捜査機関における事件処理の判断材料の1つとされます。
特に前科は、検察における起訴・不起訴の判断、刑事裁判における量刑判断において大きな意味を持ちます。

一般論として、前科が全くない場合は、不起訴処分になる可能性、執行猶予付き判決が得られる可能性が高いといえます。
また、前科があると、法律上、一定期間経過した後等でなければ、執行猶予が付けられないことがあります。

【参考条文:刑法25条】

第1項 
次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2項
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

前科・前歴―情報の取扱いにおける違い・影響―

一般に、前科や前歴の有無は、プライバシー性の高い情報とされています。
そのため、限られた機関のみが前科や前歴の情報を保有、利用しています。

● 警察や検察

警察や検察は、前科や前歴の情報・データベースを保有し、犯罪の予防や刑事事件の捜査などの事件処理に活用しています。
ここに記録された前科や前歴は、その方が死亡するまで、消されることがありません。

● 本籍地のある市区町村

市区町村は、犯罪事務規定に基づいて、「犯罪人名簿」を作成、保管し、選挙人名簿の作成などに利用しています。
罰金以上の前科(道路交通法違反等による裁判では、禁錮以上の刑)がつくと、本籍地のある市区町村の犯罪人名簿に、一定期間、記載されることになります。

一方、前歴は犯罪人名簿には記載されません。

前科も前歴も、戸籍や住民票には記載されません。
また、警察や検察の前科や前歴のデータベースや犯罪人名簿は、情報公開されていません。一般の方はもちろん、事件の利害関係人、ご本人も、閲覧できません。これらから、他者に前科・前歴が知られることはないといっていいでしょう。

前科・前歴―一般社会生活における違い・影響―

1 他者に知られた場合

マスコミによる実名報道などにより、他者にご自身(ご家族など)の前科や前歴が知られることがあります。最近は、ブログやSNSに転載されることにより拡散されます。

前科や前歴を知られることで、悪い噂がたつなど実生活に影響が出ることがあります。
前科か前歴かという違いは、他者からの評価や噂という点ではあまり大きな違いはないかもしれません。

2 資格等を取得する場合

一定の前科があることによって、制限を受ける資格は多数ありますので、これらの資格を取得したい、持っている等の場合、前歴に比べて前科の方が、社会生活に与える影響は大きいといえます。

→詳しくは「前科をつけたくない」をご参照ください。

● 企業や会社への就職活動、採用面接に際して

法律上は、企業や会社への就職の際に、ご本人が前科や前歴を申告しなければならない義務はありません。

しかし、履歴書に虚偽の記載をしたり、採用する企業・会社側から前科を尋ねられた際に嘘をつくと、経歴を詐称したことになり、後日、それが発覚して不利益を被る可能性があるので、注意が必要です。

その他の取引(住宅ローンが組めるかなど)

ご本人に前科や前歴を申告しなければならない義務はありません。
前科や前歴があるかは、お借り入れや住宅ローンの審査対象でもありません。

 

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